独特の精神性
日本人の精神性や美意識は、西洋にくらべて独特なものがあるといわれます。
例えば苔です。苔は古びたもの、朽ちゆくものの象徴ですが、そんなところにも日本人はたまらない感情を持ちます。苔寺という寺院があるくらいです。
日本庭園に苔は切っても切れませんし、さらには国歌君が代にも、抽象的概念である時間の流れを可視化するものとして登場しています。
根本には、手を入れた自然をめでる西洋に対し、自然そのままをめでる日本人の精神性の違いがあるのでしょう。
掃苔
さらに苔にまつわる言葉としては、掃苔(そうたい)というものもあります。苔をはらうということですが、転じて墓参りをするという意味で使われます。味わい深い余韻のある表現として私の好きな言葉の一つです。
著名人の墓めぐりを趣味とする人を掃苔家とも呼びます。故人の業績やその人生に静かに思いを致す、という事でしょう。
6月は梅雨の季節。猿島の苔もみずみずしい緑に輝いています。しばし立ち止まって、苔や石垣が語り掛けてくる言葉に耳を澄ましてみましょうか。
ところで、この石垣の石材は東京湾対岸の鋸山で切り出された房州石。日本の城の石垣に見られるようなわずかな曲線が美しさを一層際立たせています。(木)
2020年6月