◆ハンドホール

 1番地味な史蹟

 地味で目立たないからと言って侮ってはいけません。

 発電所の脇の坂を上り始めると、左側の足元にある直径56cmほどの、安山岩製の小ぶりのマンホールのような装置のことです。

 

 これは明治28年に稼働を始めた発電所に付属する手穴(ハンドホール)と呼ばれる立派な軍事史跡なのです。聞きなれない名称ですが、電気関係の設備には現在でも使われるポピュラーな名称の装置で、地中に埋設されたケーブルを中継するところです。

 

 猿島の場合、ケーブルは地中に埋めるか土手や石垣に這わせて配線されました。電柱では攻撃に対し脆弱だったのでしょう。

 このハンドホール、ガイドが無いとみんな素通りする、多分島で一番地味な史蹟です。

 

 寺田寅彦の言葉

 学生の頃、ずい分と勇気づけられた物理学者寺田寅彦の言葉があります。少々長いですが引用させてください。

 

 科学者になるには『あたま』がよくなくてはいけない、しかし、一方でまたいわゆる頭のいい人は、言わば足の早い旅人のようなものである。人より先に人のまだ行かない所へ行き着くこともできる代わりに、途中の道ばた、あるいはちょっとしたわき道にある肝心なものを見落とす恐れがある。

 頭の悪い人、足ののろい人がずっとあとから遅れて来てわけもなくそのだいじな宝物を拾って行く場合がある。

 頭のいい人は、言わば富士のすそ野まで来て、そこから頂上をながめただけで、それで富士の全体をのみ込んで東京へ引き返すという心配がある。富士はやはり登ってみなければわからない。

 

 猿島もそうです。ささっと回っただけではもったいないです。できれば専門ガイドと共にじっくり回ることをおすすめします。(木)

 2020年10月 

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